2024年5月7日火曜日

2024年5月4日 読売新聞 地球を読む 民主制と宗教 猪木武徳 1

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 近年、若い世代の間で思想や宗教への関心が弱まっているとの指摘がある。

一部の宗教団体が社会の安寧を脅かすような事件を引き起こし、故人の言うように「最善のものが腐敗すれば最悪のものを生み出す」ことを実感させたのも一因かもしれない。

また一般的な傾向として、現代の慌ただしい生活の中では、どうしても技術の進歩による利便性や、経済的な豊かさの追求が優先してしまう。

死や死者に思いをはせる時間が少なくなっているのも事実だ。

こうした傾向について海外の実情に目を転じると、多くの先進工業国で伝統宗教に対する国民の関心に変化が見られる。

欧米のメディアでも取り上げられている、キリスト教における「教会離れ」現象もその一つであろう。

宗教・宗派の信徒数の統計は存在するものの、特定の宗教の信徒かどうかを確定するのは容易ではない。

宗教団体からの自己申告は、証拠として弱いからだ。

一つの国で申告された様々な宗派の信徒を合計すると、国の人口を上回ることすらある。

信頼度が高い統計として、教会税を徴収しているドイツ、オーストリア、スイスなどの国には宗教別納税者数のデータがある。

ドイツの場合、基本法(憲法)で個人及び集団の信仰の自由、宗教活動と宗教的な結社の自由が認められている。

国教会の存在が否定されている点で、「政教分離」の基本は守られていると考えられる。

一定の条件を満たす宗教団体(カトリック、プロテスタント、ユダヤ教など)はラント(州)から公法上の地位を与えられており、それら公認の宗教団体は国民から教会税を徴収する権利を持つ。

教会税の税収は、聖職者の生活や教会の活動を支える安定した経済基盤となっている。

国民はどの宗派の教会に属するのか登録する。

登録された教会員は管轄の税務署によって毎月の収入からそれぞれの教会への教会税を徴収される。

信徒が教会を離れる場合は、地方裁判所や行政当局への届け出が必要になる。

この教会税に対して近年国民の不満が高まっているとの報道もある。

個人が州に納める所得税の9%程度に相当する額が教会税として徴収される。

教会側の不祥事に加え、この税負担も理由になって脱会者が増加しているというのだ。

例えばドイツでカトリック教会を離れた人は、2022年に50万人を超えた。ドイツ司教協議会によるとこの数字は史上最多だという。

プロテスタント(ドイツ福音主義教会など)も、信者数の減少という点では似た状況にある。


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